パワナ―くじらの失楽園 /ル・クレジオ
(集英社 /1995年発行)
50枚ほどの中編。二人の男によって回想される鯨漁の物語。
(抜粋)
彼らは言っていた、かの地に、カリフォルニアに、大洋に、鯨たちが子供を産みにくるその秘められた地、老いた牝の鯨たちがもどっていて死んでゆく秘められた地があると。
二人の語り手のうち、一人は、その鯨の秘境を発見した捕鯨船長スカモンであり、もう一人はその船に乗船していたインディオ水夫のジョンである。鯨と人間の緊迫した生死をかけた勝負である捕鯨。スカモンらの船は、あるかないか分からない幻のその地を目指して進んでいく。そこで彼らが子を産むために集まった無数の牝鯨を目にする。彼らは興奮する。彼らにとっては鯨が集まるその地はまさに金脈だったからだ。しかし、その次の場面で繰り広げられるのは、海をどす黒く染める大量殺戮である。そして、その発見以来毎年無数の捕鯨船がその場所におしかける。鯨が殺戮しつくされる。やがて海が死んでしまう。
興奮。栄光。そして不条理な大量殺戮。その結果、不毛となった海。それぞれのシーンの対比がすさまじい。それを回想する老いたスカモンの葛藤が胸を締め付ける。
(抜粋)
私たちには思いやりがなくなっていた、思うに、私たちは世界の美しさについてももうなにも分からなくなっていた。血の臭いに酔いしれていた。(中略)
私たちと一緒だったあの少年の眼差しを私は思い出す。彼は答えようのない質問で私の心を熱く疼かせたのだった。私はいまあの質問がどういうものだったか知っている。彼は私に尋ねていたのだ、どうして愛するものを殺すことができるのか、と。
一方、若い水夫だったジョンは、捕鯨漁の途中で停泊した島で会った野性的なインディオの少女アラセーリを回想する。奴隷として連れてこられ、逃げたために殺される彼女の姿は牝鯨にも重なって哀しい。
圧倒的な描写は日本語訳のイマイチさを補ってあまりある。読み終わってまたすぐにもう一度最初から読んだ。とにかく圧倒だった。
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