白の咆哮 /朝倉裕弥
(集英社 /2005年発行)
昨年度のすばる新人文学賞の受賞作のうちの一つ「白の咆哮」読了。固い文章、大江健三郎好きという情報から予想してた文章は、平野啓一郎「日蝕」のような文体だったのだけど、全然違った。ジャーナリスト風の淡々とした文で、「」の会話文が存在しない。この辺が固いと言われる所以だろう。元ジャーナリストの主人公の一人称語なので、文体とストーリーはぴったりであるのだが、それが魅力的かどうかと聞かれたらわたしはイマイチ。もっと色気のある文章が好み。
自分の中にある世界を作っていく筆力というか建築力がすごい。(これ、今わたしが咽から手を出して欲しい能力だ)。新人というよりは老成したおっさん作家という印象。ただし、その世界自体が魅力に乏しいし、本人が魅力を感じていたとしてもその魅力を伝えきれていない印象。よく書ききったことだけはとても評価できる。執念深く延々と書ききったというか。最初と最後でちゃんと密度が均一というか。その執拗さ。息の長さ。忍耐強さ。あとこれだけ何もあまり起こらない世界なのに、読ませる文章力(と、言っても普通の本を読み慣れていない読者なら途中で読むのをやめてしまうんじゃないかなあ)。今後選ぶ題材次第では化ける作家かも。もしくは今後も(わたしにとっては)魅力に乏しい題材を選ぶのならば、上手いけど好みじゃないぱそ子的作家リストに仲間入りするか。どちらか。
矛盾すら一つのネタになり、荒唐無稽はむしろ褒め言葉になってしまう「吉里吉里人」(日本のある村が独立して独自に政治を営むという設定が似ているので出してみた)や、独自のファンタジー世界を作りきる村上春樹作品と違って、この手の作品は設定の不備や矛盾が致命的になってしまうような類いの小説だと思う。(わたしのも実はそうなのだ。。だからたくさんの人に見てもらおうと思って。。)この矛盾や設定の穴が芥川賞候補にならなかった理由じゃないかと思う。でも、小さく完結した「あたし小説」(ぱそ子造語)が蔓延する中で、こういう試み自体がとても好ましい。次回作が楽しみ。
しかしながら、SFや歴史やミステリーと違って、純文学なのだからもっと「人間」を書いて欲しかった気もする。もちろん、SFでもミステリーでも構わないのだけど、それにしては設定が稚拙で向こうの畑の人から見たら笑われてしまうだろう。ジャンル分けなど意味がないだろうが、ジャンルがどうこうという話ではなく、作品としての「売り」が中途半端。人間なのかストーリーなのか設定なのか世界なのか。小説としての楽しみ所というか。
とにかく、この文章で世界を作っていく筆力を見習いたいというか脱帽。上手い。あとは垢抜け度と色気と穴埋めだと思うんだけど。これを選んだすばるはすごいなあとも思いました。
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