透明な旅路と / あさのあつこ
(講談社 /2005年発行)
児童文学じゃないあさのあつこさんを読んでみようかなと思って手に取った1冊。彼女の小説の強みは、鮮烈な自然と、生々しい家族のきずなを描くことじゃないかと思った。綺麗な自然、眺める光景ではなく、襲い掛かってくるような凶暴な自然を感じる。そして、家族も、単にあたたかいとか大事だとかではなく、憎んでいるのか愛しているのか分からない、切っても切れない関係として生々しく描かれる。それでいて、重苦しくない。
主人公の吉行は、行きずりの街娼をホテルで殺してしまい、車で逃避行している。誰もいるはずがない山の中で二人の子供を見つけて、乗せてくれと言われるまま乗せる。サスペンスのようなホラーのような、それでいて吉行の生い立ちやトラウマが物語られ、拾った子を自分の子供みたいにいとしく思うようになっていく過程が丁寧に書かれていて、足のない幽霊ではない実態のある物語になっている。
全体的に不穏な空気がたちこめている。時折、空気を切り裂くように、はっとさせられる情景描写が入る。読者の呼吸を支配するのがうまい作家さんだと思った。
(抜粋)
吉行と和子が、ほぼ同時に足を浸けたとき、湯の面が金色に変わった。漣の先が鈍く光り、暗く塗りこめられていた竹林に明かりが差し込む。虫の声が一際、大きくなった。
「お月さま!」
和子が天を指す。二人の頭上に月があった。満月というには、わずかに欠けた月は、それでも皓々と地を照らし、光で包もうとする。分厚い雲の切れ間から降り注いでくる月光は、奇跡のように美しかった。雲が押し寄せ月を隠し、雷名が轟くまでの数秒、吉行は膝から下を湯に浸けたまま、空を仰ぎ見ていた。
|
|