読書の記録

No.349 2010.2.15

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大統領の最後の恋 / アンドレイ・クルコフ

(新潮社 /2006年発行)

 ウクライナの作家。「ペンギンの憂鬱」が面白かったので読んでみようかと。

 辞書並みの分厚さの本に、ぎっしりと小さな文字が詰まっている大長編。しかも、一続きの話なら一気に読んでしまうけれど、3つの時系列が交互に、かつ同時に進行していく(A→1→B→2→C→3…のように)ので一気に読むのが難しく、面白いのに読み終わるのまで長くかかった。ある意味、ゆっくり楽しめて贅沢な本かも。途中で飽きたり、続きがどうでもよくなったりすることもない。不思議な時系列に混乱することもない。そして最後は3つの時間の共通項が見えてきて、つながってきて、主人公の人生を丸ごと体験したかのような充実感が得られる。小説でしかできないことをやっているな、と思った。★10個の最高点を出すくらい、唯一無二の小説だと思った。

 時系列1は、主人公の青年時代。仲間と無茶をしたり、できちゃった婚をしたけど赤ん坊が死産で妻から一方的に別れを告げられ離婚したり。時系列2は、30代くらい。精神疾患を抱えた双子の弟を療養施設に入れるために母と四苦八苦するが、療養施設で出会った双子の姉妹にお互い惚れて、二組の夫婦が誕生する。時系列3は50代くらい。主人公は大統領になっているが、心臓の病気で倒れ目覚めたら知らぬうちに心臓移植をされていた。心臓主の妻である謎の女が隣の部屋に住むことになる。

 3つの時系列が同時進行することで、少しずつ謎が見えてくるから、ページをめくるのが楽しくなる。でも何よりこの小説が面白いのは、登場人物たちが本当に生き生きと書かれていることだ。大事な人物も、ちょっと出てきただけの人物も、何だか印象深くて、別の時系列で同じ名前を見たときに「ああ、この人は前に出てきたあの人!」と分かって感動する。青年時代にちょっとだけ縁があった人物が、壮年時代に再び出てきたり。人間の縁ってそういうものだよな、と思った。そして、青年時代の無茶っぷりを知ってるからこそ、大統領になった主人公のやることなすことがいとおしくてたまらない。

 この小説には話の本質からは余計なエピソードがいっぱいあって、でもそのエピソードはどれも本物の生きているエピソードだから、そこが面白い。何かを伝えたいとかストーリーの伏線のためのエピソードだけの小説は、貧しい。小説だって人生と同じで、一本道で進んでいくわけじゃないのだから。

 すごい小説だったな。いつか自分が死ぬまでに、こんな小説を書きたい。

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