東京奇譚集 / 村上春樹
(新潮社 /2005年発行)
村上春樹の小説は全部読んでる、と思ってたけど、なぜか抜けていた一冊。日常の中に普通に起こり得るような、もしくは健全な精神状態だったら見逃してしまうほど些細な、「不思議」が織りこまれた短編小説。
ゲイのピアノ調教師、ハワイでサーファーの息子を亡くした母親の話、マンションの階段を移動中に突然いなくなってしまった夫探しを頼まれた男の話、ビルとビルの間の綱渡りパフォーマンスを職業とする女と出会う小説家の話、名前を奪う猿の話。
奇妙な出来事が日常のこととして淡々と語られる。その姿勢が、主役は奇妙さではなく、日常を生きる主人公たちの何気ない心の動きであると伝えている。一編一編、どれも、普通でないことを書かないよう、細心の注意を払っているような気がした。うっかり飛び出す作者の見せびらかしみたいなエピソードや小道具を、注意深く削ぎとって、特別でないものにしようとしているような気がした。
カーヴァーに似た不思議な手触りの短編集だった。読み終わったときに、一体何を語られたのだろう、と少し呆然とする。足元のおぼつかないところに放り出された気がする。何を感じてもいい、と言われた気がした。
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