読書の記録

No.311 2009.8.18

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アフリカのひと 父の肖像 / ル・クレジオ

(集英社 /2006年発行)

 ル・クレジオはどこの国の作家かと言われてもぱっと思い浮かばない。モーリシャス島生まれの親を持ち、フランス国籍とモーリシャス島国籍を持ち、アフリカで子供時代を過ごし、モロッコ人の妻を持つ。そういう細かい事実はあげられるけれど、彼の文学は、どこがルーツだと限定できない気がする。ルーツが混在していることが彼の特徴である気がする。旅する作家とはまた違う。もっと根源的で身体的な部分で、混ざり合っている。

 軍医だった父と、父の仕事の影響でアフリカで過ごした少年時代とを語るエッセイ。エッセイなんだけど、今まで読んだル・クレジオの本の中で一番面白かった。ル・クレジオの個人の思いというよりは、一人の少年の物語というように読めた。アフリカの気候や虫たちに圧倒された。厳格で職業意識の高い父親の性質が生々しく伝わってきた。ひりひりするような皮膚の感覚、原始的な衝動がつまったエッセイだと思った。

 文章が読みにくいのは原文が特徴的だからなのか、訳者のくせなのか、どっちだろう。
(訳・管野昭正)

(引用) どんな人間存在もすべてひとりの父親とひとりの母親による結果である。彼らを認めない、彼らを愛さないということはあっても、彼らを疑うわけにはいかない。とにかく彼らはいるし、彼らの顔、態度、物腰、癖、幻想、希望があり、彼らの手の形と足の指の形、眼の色と髪の色、ものの言い方、考え、おそらくは死のときの年齢があり、それらすべてが私たちのなかに受けつがれているのである。


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