人形の家 /トーベ・ヤンソン
(筑摩書房 /1997年発行)
ムーミンの作者であり画家でもあるフィンランドの女性作家トーベ・ヤンソン。彼女が書く小説は本当に秀逸です。ムーミンの可愛らしい絵のイメージから、児童文学みたいな小説を想像してたけれど、そうじゃなくて、あの皮肉の効いた個性的で頑固なムーミンのキャラクターたちをもっと煮詰めて凝縮した生々しい人生を、彼女は小説という手段を使って描いていく。
この短編集は、特に様々な職業や状況の人たちが出てくる。どれもため息が出るくらいよく出来た短編で、小説としても秀逸だけど、描かれた意固地でこだわりを持って静かに暮らしている登場人物たちがいとおしくてたまらなくなった。
批評家が当たり障りのない言葉で誉めているのを俺が年を取ったせいだと不機嫌になる、老彫刻家の話。猿と散歩に出かけることを他人にからかわれても、友人たちと仲たがいをしても、猿がやっかいな悪戯をしても、何一つ彼の世界は揺らがない。
機関車の図面を書くことだけが唯一の情熱を注ぐ対象である男は、人間が内面を暴露する瞬間、相手の本質が分かる瞬間を好んで会話を誘導し、それを機関車の内燃機関を描く材料とする。人間同士のつきあいは、機関車を書くことのためである。その確固とした彼の世界が、見知らぬ女によって揺らぎ崩されていく。
着飾って船に乗り、小さな島のレストランで食事をする三人の老婦人。一人が調子に乗って若者たちに話しかける。レストランの一場面で、三人の絶妙な距離感が描かれる。
静かな語り口。大きなドラマは起こらないし、凝った技法もない(わたしには、なさそうに見える)。なのに、どの短編にも、ひりひりするような何かがある。読み終わって一本の映画を見終わった以上の、どきどきが残る。…などと、わたしは大絶賛なのですが、他の人はどうなんだろうな。たぶんわたしは、彼女の描く頑固で純粋な芸術家たちがツボなんだろうと思う。
訳:冨原眞弓
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