半島を出よ(上)(下) /村上龍
(幻冬舎 /2005年発行)
春樹派か龍派かって分かれるものでしょうか。わたしはどちらも好きですよ。しかし、一時期ずっと読んでたのですが、村上龍のグロ描写にあてられて(イン・ザ・ミソスープとか、イビサとか。ホラーなんだもん!)しばらく離れていました。だけど、このあいだ読んだ高橋源一郎の本の中に、文章がうまい作家として紹介されていて、また読んでみようと思ったのでした。昔は文章が上手い下手なんて考えずに読んでいたので、そう言われてもピンと来なかったのだけど、確かに上手いです。次々と登場人物の名前が現れる。わたしの苦手な政治やら地理やら武器やらの用語が現れる。だけど、ちゃんと頭に入ってくる。これだけの複雑な情報を、簡潔な文で負担なく読者に届けてくる。近未来の話なのに、目の前に情景が浮かぶようだし、次々出てくる割には誰が誰かなぜか分かる。一人一人違う声が聞こえてくるよう。
2011年、北朝鮮の作戦で数人の軍隊に福岡ドームが占拠されて九州が占領される話。きなくさそうな話だと思って倦厭してたのに、どんどん引き込まれたのは、登場人物が本当によく書けているから。北朝鮮の軍人たち。社会からつまはじきにされているが堂々と自分を貫いている少年たち。生ぬるい平和に浸かりきって右往左往するばかりで何も対処できない政治家たち。一市民として福岡に暮らす子持ちの女性。様々な視点から一つの出来事を書き上げている。ストーリーの行き着く先がどうなるかはらはらして読み進んでいくのももちろんだけど、この小説の魅力は、出てくる登場人物全員がいとおしいと感じたこと。それぞれの立場で懸命に生きている。敵とか味方とか悪とか正義とかじゃなくて、それぞれ、こうしか生きられないというのが伝わってくる。これこそが小説なんだ、と思った。膨大な資料と取材の結果の物語の端々に様々な分野の知識がつまっている。それが押し付けがましくないし、偏見や誤解もない感じがして、本当にこなれている。すげえ。まじすげえです。
こんなスケールの大きな、そして緻密で繊細な話をよく書けたなあと感心したあとで、あとがきを見て、しんと引き締まるような気持がした。
「書けるわけがないが、書かないとはじまらない」と思いながら、最後まで書き続けた。(あとがきより)
村上龍、天才。★10個です。
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