読書の記録

No.278 2008.7.17

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一億三千万人のための小説教室
 /高橋源一郎

(岩波書店 /2002年発行)

 小説教室と言っても、ハウトゥーものでは全然なく。わたしがじたばたしまくってあれこれ間違ったことしてぶつかって悩んで騒いでようやく辿り着いた小説の書き方のようなもの、と同じこと言ってて、すっごいにまにましながら読みました。わお!そうか!源さんも一緒か!めっちゃ嬉しい。すっげー分かるぜ。という暑苦しいテンションで。

 小説を書いていると言うと、よくいろいろなアドバイスをもらう。アドバイスしたがる人種ってのはどこにでもいるわけで。その中で素直に聞けるものと聞けないものがある。アドバイスをしている当人が実践して試行錯誤の結果得た実感から出たアドバイスってのは、本当に貴重で身に染みる。だから聞く。でも、大抵のアドバイスは、どこかで耳にした一般論を焼き直して押し付けてくるだけだから聞けない。確かにそれは正しいけれど、正しいことなんて世の中に五万とあって、それを全部実践するわけにはいかなくて、しかもそういう正しさなら人に言われなくてもいくらでも摂取できる。そのへんに転がってるからね。だけど、当人が汗して得た実感の正しさというのは、その当人の口からしか出てこない貴重なもので、たとえその内容が一般論と同じだったとしても密度や中身が全然違うと思うのです。聞くに値すると思わせられてしまう。

 この小説教室は、高橋さん本人が実践して得た実感が大量に詰まった本。こうしなさい、ああしなさい、ではなく、僕はこんなことしてこんなことを得ました、という本。手ぶらで小説の書き方を教えてもらおうと思ってる人には、回りくどくて何が言いたいのか分からなくてがっかりする文章かもしれない。でも、小説を本気で書こう、もしくは書いているという人には、自分とは別の人がどんなふうに考えているのかが分かる貴重な本だと思う。

 彼は自分が知ってる限り、「小説教室」や「小説の書き方」を読んで小説家になった人はひとりもいないと断言する。それは何故か。

(引用)
小説家は、小説の書き方を、ひとりで見つけるしかないから


 本当に、そのとおりだと思った。


 岩波新書


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