読書の記録

No.269 2008.5.27

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刺繍天国 /松井雪子

(文藝春秋 /2006年発行)

 わー、二ヶ月ぶりの更新ですよ。ご無沙汰しています。

 この本、装丁が相当可愛い。真っ赤な地の色に刺繍で作った蝶。松井雪子という名をどこかで聞いたことあるなあと思って手に取ったら、ここに収録されている「恋蜘蛛」で芥川賞候補になって落ちたなあ…ということを思い出しました。そしてwikipediaをふと見ると、2001、2003、2004、2005、2007年と五回も芥川賞候補になってたよ…。おおう…候補常連だったのね…。初めて知りました。

 文学界掲載した2作が収録されているのだけど、え、これ、文学界? と思うほど、ゆるくて読みやすい女子系の話。でも、芥川賞だ、文学だなんてことを考えなかったら結構好きな感じの作風でした。

「恋蜘蛛」:遊園地などのイベントのコスチュームを作る会社で働く主人公。後輩のコージ君に恋心を抱いていて、周到な計画の末、案外あっさりとコージ君は自分のものに。部屋に住み着くことになったコージ君は、以前から抱いていた刺繍への情熱を爆発させ、独立して夢の刺繍屋さんという事業を始めることになる。

 あらすじだけ書くと漫画みたいなんだけど、「縫い仕事をしていると、布から見え隠れする針が、海から跳ねる魚のように思えるときがある。そういうときは調子がいい。集中できているから、あっという間に時間が経つ。」なんて文章に心をかっさらわれてしまう。こういう表現がするっと自然体で散りばめられていて、読んでいて気持がいい小説だった。

 この方は元々漫画家さんなんだけども。だからなのか、文章のリズム感がいいな。会話の間というか、文章の間の取り方がうまい。ちょっと痛い女を可愛く共感できるように書いてるのも楽しいし、刺繍に情熱を注ぐ主人公たちもなかなかいい。いいところをついてくる。デティールも好き。でも、小説としては、ちょっとふわふわしすぎて、余韻が物足りないかな。これ、きっと漫画で描いたらもっとぐっと来るんだろうなあ…と思いましたが。でも世界観は好きだな。他のも読んでみようと思いました。




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