読書の記録

No.266 2008.3.20

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夜のピクニック /恩田陸

(新潮社 /2004年発行)

 うーん、お見事。面白かった上に、小説としての企みに溢れていて見事成功させた手腕に脱帽です。★満点。

 第2回本屋大賞受賞。主人公たちの通う高校では、二十四時間延々と歩き続けるという行事「歩行祭」というものがある。それは準備も手間もかかるし、当日は死ぬ思いをするし、とにかく大変なのだが、達成したときの喜びはひとしおで卒業生たちのよい思い出になるのだという。この小説は、この行事当日が舞台で、スタートしてゴールするまでを延々と書き綴った物語である。

 ささやかだけど確信的な仕掛けが散りばめられている。まず、主人公である貴子と融は異母兄弟である。融の父の浮気相手の子が貴子。親同士の確執は自分たちには関係ないと思いながらも、その関係に囚われ素直に言葉を交わすことができないがお互い気になってはいる。この二人が最初は離れ離れなのに、少しずつ葛藤しながらも近づいていく。その様子を見守るのがはらはらする。また、延々と歩き続けると、頭の中にとめどない思いや考えが沸いて来る様子がリアルに描かれていて、それが自然と高校時代の思い出や友情や少年少女が抱く葛藤を浮き彫りにしていて、読んでいて切ない。団体で延々と歩かされる不条理さが高校という場所の不自由さを思い出させてくれるし、懐かしい思いにもさせてくれる。肉体を酷使することで浮かんでくる様々な思いも距離に応じてリアルに描かれる。彼らの交わす会話は、疲れきっていて到底練られたものではないという状況を反映して、自然でいい意味で無駄がなく、感情の温度がすっきりと伝わってくる。登場する高校生たちが、友人を思いやる気持ちがそれぞれにリアルで優しく、いとおしい。

 読み終わると自分も一緒に歩行祭をやり遂げたような感動があった。これもまた仕掛けの一つ。

 ぬう!見事な小説でした。小説の良さが存分に生きてた。これ、もっと遅く刊行されていたら大江健三郎賞獲ってたと思います(大江健三郎賞は2006年から)。世界各国に訳されて欲しかったなあ。

 文庫


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