ぼくには数字が風景に見える /ダニエル・タメット
(講談社 /2007年発行)
世の中には、記憶力が怪物並みだったり、何十年後の何月何日が何曜日なのかを一瞬で当てたり、ある数字が素数かどうか一瞬で見分けたり、5桁×5桁の掛け算を数秒で答えを出したりする、そんな人がいる。サヴァン症候群という。レインマンという映画で有名になったらしいが、わたしはその映画見てない。「キューブ」に知恵遅れのようなのに天文学的な数字の因数分解の暗算を一瞬でやってしまう男が登場するけど、あれもこのサヴァン症候群ですね。これらはフィクションの中にだけ登場するエスパーではなく、実際に現実に存在していて、脳科学者たちが真剣に興味を持っている症状なのです。
この本はサヴァン症候群であり、共感覚者であり、自閉症スペクトグラムである著者自身が書いた自伝。彼の頭の中でどんなふうな景色が見えているのか、彼自身の言葉で克明に語られるのだから、本当に貴重な本だと思う。そして、そんな特殊な能力や体験を抜きにしても、彼自身がユーモアに富んだ愛すべき人物だということが文章から伝わってくる。本当に楽しく興味深く読みました。
彼にとって数字はただの記号ではなく、質感や光や色や形を伴った有機的な物体に見える。彼が計算するときや数字を暗記するときは、わたしたちが通常処理するように九九の掛け算の言語的な記憶を呼び出しながら計算したりしない。ただ数字の質感や形の組み合わせを頼りに、映像的に処理してしまう。だから通常の人間とは違う、尋常でない計算や暗記が出来る。素数は滑らかで美しい数字だから、思い浮かべるだけでその数字が素数かどうかすぐに分かってしまう、らしい。うーむ。
また彼は新しい言語を習得するのも得意で、現在十ヶ国語が話せて、自分独自の言語も作成中らしい。うーむ。すごい。
このような能力は、脳のある部分の機能障害を補うために別の脳の部分が発達して生まれてくるといわれている。だから大抵のサヴァン症候群は自閉症スペクトグラムの症状を併発しており、人とのコミュニケーション方法がうまくいかなかったり、瑣末なことにこだわりすぎて全体の流れを見落としたり、予測できない事態に動揺して何もできなくなったりという症状もある。この本は、そういう障害のために人から誤解されて生きにくかったことや、家族が支えてくれたことや、本人の成長が克明に彼自身の言葉で綴られている。エスパーでも特別な障害者でもない、悩んだり自分の道を探して葛藤したりする一人の人間としての息遣いが伝わってくる。
また、科学的な説明もふんだんに載っている。
いやいや、この本、とても面白いです。人間の脳って本当に不思議だ。
訳:古屋美登里
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