夕子ちゃんの近道 /長嶋有
(新潮社 /2006年発行)
第一回大江健三郎賞受賞作。どんなものかと思ったら、小難しい文学や実験的な文章なんてものじゃなくて、あくまでオーソドックスな慣れ親しんだ小説らしい小説で、しかもその慣れ親しんだ小説の良さが存分に出ている成熟した良い小説だなと思ったのでした。大江健三郎賞受賞作は翻訳されて世界各国で出版されるんだって。この作品が出版されるのって素敵。
フララコ屋というあまり儲けのないアンティークショップでバイトする僕は、ショップの二階に居候している。飄々としてやることなすことどこかユーモラスな店長、頑固で昔かたぎの大家さん、大家さんの孫の朝子さんと夕子ちゃん。近所に住んでいる瑞枝さん。こんな登場人物が少しずつ関わりあっていく連作短編集。
大きなストーリーや感動があるわけじゃない。彼らの日常を読んでいくのが楽しい。根無し草のまま特に目標も希望もなく淡々とバイト生活に落ち着いている僕の動向が気になるし、葛藤とか見せずに何となく生きているのはとてもリアルな気がする。高校生の夕子ちゃんや芸大生の朝子さん、離婚協議中の瑞枝さん、子供と奥さんがいる店長、老人の大家さん、それぞれ違う世代の人生が見え隠れする。見え隠れする具合が現実の人との距離感に近い。何より、登場人物たちが一人一人しっかり自然な存在感がある。行動も発言も、ああこの人ならこうしそうだと自然に思わせられてしまう。
ほのぼのとして、どこかおかしく、そして何だか少し寂しくなる。面白い小説だった。
あ、アマゾンに大江健三郎の評があった。
「懐かしい小説の魅力を、それもすっかり新しい日本人たちをつうじて表現した作品」
わたしが言ったことと同じだわ。よい賞だ。うん。
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