読書の記録

No.256 2008.1.17

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青色ミライ /楽月慎

(光文社 /2007年発行)

 2005年に朝日新人文学賞受賞でデビューした楽月さんの二冊目の書き下ろし単行本。一冊目のデビュー作は40代サラリーマンだったのに対し、この小説の主人公は30歳。作者の年齢に近い。たくさん魂が入っている気がしたなあ。

 主人公の哲也は仙台出身。故郷のしがらみを振り切るように東京に出てきてそのまま就職したが、特に夢や希望があるわけでもなく淡々と生きている。同棲している真奈美とはなかなか結婚に踏み切れない。一緒にいないと会いたいし、一緒にいるとイライラしてしまう、そんな関係。ある日、偶然故郷の友人に出会い、飲んでいるうちに幼馴染のさきっちゃんが自殺したことを知る。さきっちゃんと過ごした小学校時代、三年前に突然上京してきて映画を撮るのに付き合ったひとときの思い出を会話の途中で回想しながら物語は進んでいく。

 友人の自殺というセンチメンタルなテーマは正直言ってもうお腹いっぱいという気もしたけれど、読み薦めていくうちに他の小説と手触りが明らかに違うという気がして目が離せなくなった。あくまでこの小説は死者が主役ではなく、それを知って思い悩む哲也が主役であり、小説のテーマは死者への感傷ではなくさきっちゃんが死んだということによって照らし出される哲也の人生なのだ。会話が多く、回想シーンがところどころに差し挟まり、するりと比喩的な幻想が割り込んできたりもする。熱量100%でがちゃがちゃと語られる語り口が、最初は読みにくいなあと思ったのだけど、読んでいるうちにこの文章でしか出せない不思議な熱い気持ちが沸いてきた。何だろう、主人公がものすごく等身大。小説の主人公にしては健全で、とりえがなくて、はたから見れば人生をそれなりにこなしていて、社会からも受け入れられている。でもそういう"普通の"人間の中にも葛藤や悩みはある。それを描いていると思った。

 小説を読み終わったというよりは、目の前にいる友人の話を聞き終わったときのような、親しみのともなう熱いものが胸のうちに残った。こんなストーリーで感動なんてするものかと思ってたのに、感動してしまった。これが新人賞のときに高橋源一郎審査員が評した「小説柄がいい」という効果なのかもしれない。時折使われる仙台弁もいい効果を出していた。方言を持っている、故郷があるというのは強みだなと思った。

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