金輪際 /車谷長吉
(文藝春秋 /平成11年発行)
短編集。随筆なのだか小説なのだか分からない手触りの短編たち。彼の書く物語はそんなふうに自分の中だけで完結せず、わざと風穴がいっぱい空けてあって現実と繋がっている気がする。フィクション独特のハイテンションや見られる人特有の気負いもなく、ただ淡々と主人公は語っていく。物語も一人の男と一人の女の間の微妙な空気揺らぎのようなものが核となっていて、何が起こるというわけではない。それなのに、緊張感溢れる文章がわたしを掴んで離さない。特に変わった言い回しをしているわけではないのに、一文一文、次に何が来るのか分からない不思議な期待がある。いい意味で裏切る文を書く人だと思う。
彼の描く女性は硬質な美しさを持って魅了する。彼の書く主人公は、どうしようもなさを全部引き受けて打ちのめされそうになりながらも底の底で淡々と生きていく。彼の世界に居ると、上っ面の表面で苦しい苦しいと騒ぎ立てている自分の浅はかさを暴き、しゅんっとさせられる。彼の書く主人公のような強さが欲しいと願う。
作家としてデビューしているのに家計が苦しくて嘱託社員をし、それも解雇されてますます金銭的にどうしようもなくなった状態の日々を描いた随筆「変」が身に染みた。彼の小説は彼の人生そのものなんだろうなあと思った。
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