読書の記録

No.252 2008.1.9

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魂萌え! /桐野夏生

(毎日新聞社 /2005年発行)

 2004年1月から12月まで毎日新聞に連載された作品だそうだ。NHKドラマにもなったそうだ。

 夫に急に死なれてしまった60歳手前の専業主婦が主人公。夫が定年退職してこれからのんびりやろうとした矢先に夫が死ぬなんて思いもしなかった出来事で、これからどうやって生きていけばいいのかと途方にくれる主人公は、自分勝手な息子や、夫の愛人と対決せざるを得ない状況になって、今までは知らなかった芯の強い自分を見出し、新しい人生の方向を見つけていく。

 こんなネタが小説になっちゃうんですか!桐野さん!ブラボー!と、思いました。毎度ながら。専業主婦。愛し合っているという感じはないけど夫婦としては助け合いうまくやっている夫。ミュージシャンになるといってアメリカに行ったきり、結婚して孫も生まれたのに顔を見せない自分勝手な息子。近所に住んでいるが自立しきれていない娘。ときどきランチをする主婦仲間。どこにでもいそうな平凡な人たち。彼らが主人公を取り巻きいろいろ影響を及ぼしていく中で、主人公の人となりが生き生きと描かれている。最初は読んでいていらいらするくらい消極的でお人よしだった主人公が次第にたくましく変貌していくこの話は、わくわくするような成長譚の一種なのかもしれない。いらいらするくらい消極的と言っても、自分が自分にいらいらするような、そう分かってるけどできないんだよ!という共感のいらいら。たくましく変貌したといってもやっぱり主人公は迷ったり悩んだり悔しがったりしつつなので、とても共感できる。

 彼女の小説の魅力は、主人公に影響を及ぼすちょっと嫌な人物たち(でも最後まで読んでいくうちに理解できて魅力を感じていく)と、ほんの少しだけ現実とずれたびっくりするような事件だと思う。それに加えて最近は「主人公の弱さ」が魅力の一つに加わった気がする。「OUT」のときの主人公は見てて安心する迷いのない主人公だったけれど、この「魂萌え!」や「メタボラ」は主人公が迷い悩み弱いところを見せる。エンターテイメントの枠を超えて純文学でもあるとわたしが感じるのは、そういう理由からかもしれない。

 お、文庫の装丁いいね!




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