読書の記録

No.249 2007.12.16

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メタボラ /桐野夏生

(朝日新聞社 /2007年発行)

 桐野さんの新しいやつですよ。幻想か夢か、そんなシーンで始まるけれど、それは紛れもないリアルな現実だった。それに気づいたらもうストーリーから、主人公から、目が離せなくなった。

 まだ新しい作品なので内容がばれるようなことは書かないでおこう。主人公「僕」の語りも全く不自然なく読めたし、肩の力が抜けてて本当に僕の口から身の上話を聞いているような気になって没頭して読みました。朝日新聞に連載してたやつらしいけど、一つの繋がった物語としてとても完成度が高い。後から大分手を入れたのか、最初から全部組み立ててから連載を始めたのか。今まで読んだ桐野作品の中で、一番きっちりと物語を作ってあるなあと思いました。現実に近い手触り。作者の都合でゆがめたり、脚色しすぎたり、乱暴になったりしていない。着実によい作家になっているのだなあと安心した。って、偉そうに。誰だよ、わたしは。

 派遣の工場労働はかなり激務で身も心も磨り減る…らしいと2chの噂では知ってたし、この間読んだフリーターズフリーにもちらっと出てきたので大変なんだろうなあということは分かる。でもこの小説では、磨り減って生きる希望を徐々に失っていく過程が本当に切実な(でも客観的な)筆で書かれていて見事だと思った。時給や待遇や状況だけ聞いたら我慢しろと思うかもしれないけれど、人間関係や寮の生活や将来の見えなさ、そういう個人としての切実なストレスが淡々と書かれていた。うーん。なぜここまで書けちゃうんだろう。きっとかなりの取材はしてると思う。でも知識の羅列だけじゃなく、すっと魂を入れてしまうのがこの作家のすごいところだと思う。

 彼女一人でジャンルの壁をどんどん壊して新しい小説を生み出してる、そんな作家だと思う。




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