読書の記録

No.246 2007.11.21

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わたしを離さないで /カズオ・イシグロ

(早川書房 /2006年発行)

 イギリスの権威ある文学賞ブッカー賞受賞者。え、日本人?とか思って気になってたのです。日本人なのですが5歳のときに渡英して以来イギリスに住んでいて、帰化したので、イギリス人になるのかな。知り合い二人からこの本を薦められたので読んでみました。

 いやあ、こんな純文学があるんだね。文学って何を書いてもいいんだね。こういうふうに書いたらこの題材が文学になるんだ。なるほど。面白かったし、書き手として興味深い小説でした。読んでよかった。

 語り手が何について語っているのか、最初は分からない。一見本筋に関係ないような少女時代の思い出を延々と読まされる。でもそれ自体が面白い。どうしてこんなに別の人間の人生を作り上げることができるんだろうと感心する。延々と読み続けた少女時代の思い出が有機的に統合し、一つの像が見えてきたとき、ああ、どうしてこんなものが書けるんだろう、敵わないと溜息が洩れた。

…以上!てなわけにいかないですが、何だかどの書評もネットの感想文も本の後書きまで、「ネタばれ」するから筋は言わないという姿勢を貫き通していらっしゃるので感想が書きにくいったらありゃしない。冒頭から主人公が何について語ろうとしているのかよく分からない。決して隠しているわけではないけれど、何か普通と違うものを語ろうとしている。その緊迫感と、ページを読み進めていくうちに段々分かっていく楽しみを味わいたい人は、ぜひここでこの読書の記録を読むのをやめて、本を読んでみてください。で、その後に続きを読んでね。もしここまでの紹介で、別にまだ読みたいと思わなかったという人は続きをどうぞ。みんなネタばれネタばれとかいうけれど、それ自体は一つの題材であって、それが分かったからと行って読む楽しみが減るとは思わないのだけど。ではでは、本読む人は、またあとで。







 キャシーという一人の女性の回顧録。冒頭から「介護人」や「提供」という語が出てきてもしやもしやと思いながら読み進めるのだけど、あまりにもSFとはかけ離れた文学の視点でありそうな少女時代を綿密に語っていくので、まさかと思っていたら、やっぱりそうだった。ってわたしまだ何も言えてない…!
 臓器提供のために作られたクローン人間たちが主人公の話です。と、書くとものすごく手触りの違う話を想像してしまうのだけど、徹底してクローン人間本人の視点に立って語り、しかもそのクローン人間は、作中の他の人間たちが勝手に思ってるような心がなかったり何かが欠けている人造物ではなく、普通の少女たちである。クローンであるキャシー自身の目で世界を見ているわたしたちには、そんな何の罪もないただの少女たちが、大切に育てられ、時期が来ると「提供」し、死んでしまうという事実に、やりきれなさを感じてしまうが、当の本人たちはそれに疑問を抱くこともない。教え込まれたとおり、それを使命だと思い、受け入れていく。そのために作られたクローンなんだから当たり前じゃないか、という視点と、クローンって一体なんだろうという本人たちの視点を揺り動かされながら、これは特別な出来事を書いたんじゃなくて、現実に誰もに当てはまるメタファーなんだと言っていたイシグロのインタビューを思い出した。  




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