読書の記録

No.239 2007.9.26

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対岸の彼女 /角田光代

(文藝春秋 /2004年発行)

 これで直木賞取って、ますます活躍しまくってる角田さんです。他の作品は結構読んでるのだけど、直木賞受賞作をようやく読めました。★10個なんです。久々の満点。万人受けする小説じゃないと思うけど、これが直木賞に選ばれてみんなが読んだんだったらすごくいいことだなあと思います。設定やストーリーだけ取り出したらたぶん全然この魅力を伝えられない。小説でしか出来ないことをやってると思った。何一つ省略することなく、ずるすることなく、伝えるべきことを伝えていたと思った。ドラマ化されたの? 脚本がんばらないと地味だっただろうなあ…。

 こんな恐い小説初めて読んだ、と思いました。地味な主婦やどこにでもいそうな田舎の女子高生の日常生活の、誰かに対するささいな負の感情をここまでそのまま書いてしまうなんて本当に読みながらぞっとした。「そのまま書い」ているとこちらが感じるってことは、作者としては本当に芸もなくそのまま書いたわけじゃなくて、変な思い入れとか作為とかを一切排除して、書くべき部分を書くべきように書いたという高等芸ゆえなんですよ(と思います)。角田さんの書く、がっしりと地に根を生やしたような怒りを抱えた根暗な主人公の持ち味が、この作品で結集しましたという感じでしたよ。こわかったー!とてもいい意味でね。

 散りばめられたエピソード自体は興味が沸かないものばかりで、先にあらすじを聞いたら読もうとは思わなかったかもしれない。公園デビューに悩むママとか。仕事に出るのに理解を示さない嫌味な夫と姑とかね。女子高のいじめとかね。女の子二人の駆け落ち?とかね。でも、どのエピソードも「人と人との係わり合い」というテーマに焦点を当てて徹底的に書かれていて、ぶれてなくて、その執念じみた筆運びたるや、すごいんですよ。仕掛けが地味なだけに、じっくりじんわり来る。主人公が侵食されて変化していく小説がいい小説だとわたしは思っていて、その侵食されっぷりが容赦なくて切実で恐いと思った小説なのでした。主人公が侵食されるということは読者自身が侵食されそこに思いを馳せるということ。自分の身を差し出し削られつつ読んでいく小説を最後まで読んだとき得られるものは、他に変えがたいものがあると思う。 削っておいてバッドエンドのまま放置されたら立ち直れないけど、そのへんもちゃんと安心して読めるのは彼女がもう「職人」だからだと思う。自分の気分やエゴで読者を振り回さない。うん、プロの仕事だわー。

 それにしてもamazonに載ってるこの紹介はあんまりだ。手抜きすぎだろ。ポイントそこじゃないっしょ。

出版社 / 著者からの内容紹介
30代、既婚、子持ちの「勝ち犬」小夜子と、独身、子なしの「負け犬」葵。性格も生活環境も全く違う二人の女性の友情は成立するのか!?




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