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赤目四十八瀧心中未遂 /車谷長吉 (文藝春秋 /平成十年発行) 読書家の友人の薦めで読んでみた作者。全く知らなかったので、このタイトルを見てミステリー小説かと思っていたが、全然違った。紛れもない文学だった。文学界に連載していた作品。 東京で会社員をしていたが、中流の生活というものに潜在的な恐怖を覚える主人公は当てもなく会社を辞め、放浪の生活に入った。流れ着いた尼崎で、狭いアパートの一室に篭り届けられる臓物を切っては串に刺し焼き鳥を作る生活を始める。やくざの陰が見え隠れするその生活の中で、臆することも文句を言うこともなく淡々と生きていく主人公と彼を取り巻く人間たちが描かれる。 目を引くだけの言葉、飾りの言葉、形式だけの空虚な言葉、語呂合わせの言葉、そんな軽い言葉に囲まれて日常を過ごしているわたしには、この小説の言葉がずっしりと応えた。息をして飯を食べて寝て、そんな生きるために必要最低限の動作に匹敵する、魂から思わず洩れ出る必要最低限の言葉だけでつづられた小説だと思った。登場人物たちは皆言葉が少ないが、その中にはその人の人生が篭められている。風景描写は主人公の心情と濃密にリンクしていて、どの文字も読み飛ばせない。時の経過を表す語や、接続語や、どこから帰ってきたというような説明がぎりぎりまで省かれていて、段落を変えただけで場面を変えてしまう文章。これだけ濃厚なのに、息が詰まるようなことはなく、びっくりするようなストーリーの流れがあるわけでもないのに、目が離せず、少しずつ大切に大切にページを読み進めていった。 怖い小説だ。人一人の魂がそのまま入っていて、ページを開くと心にずっしりと重い言葉を語りかけてくる。とても文学だ。とても面白かった。 |