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悪人 /吉田修一 (新潮社 /2007年発行) 朝日新聞に連載していた小説の単行本化。帯には浅田彰の絶賛の声が書いてあるし、本人も大傑作だって言ってるし(フリーペーパーL25のエッセイで)、友人が涙が止まらなかったって大絶賛してるし、先生がノーベル文学賞級だよって言うし、読んでみた。吉田修一の作品はいくつか読んだことがある。うまいし面白いんだけど、こうやってこうオチをつけたら文学っぽいでしょ?という小賢しさが目についてあまり好きじゃなかったのです。でも、今度は朝日新聞連載ということで大衆文学寄りなわけで、ものすごく分厚いし、うわー、大化けしたか!とわくわくしながら読み始めました。 今までの純文学雑誌掲載と違って新聞連載だから文章が平易で描写がなくて人物がありきたりで会話が野暮ったいのは、100歩下がって譲ろう。九州が舞台でやたら九州弁なのが私にはどうもこうも身近過ぎて冷めてしまうのはこっちの事情だから100歩進んで譲ろう(非九州人にはこのエキゾチック感がうけたのではないだろうか)。メールアドレスを、メアドじゃなくて「メルアド」と発言している今風のイケイケ大学生君も許そう。(イケイケなんて言葉を使うわたしもついでに許そう) なぜなら、この小説の真骨頂はストーリーであり、いろいろな人生を書いていることであり、一つの事件がいろいろな角度から見えてきて感動できること、らしいから。最後まで読むまで評価は保留だ!がんばれあたし!とか思って頑張ったんだけど、 …これを絶賛してる人たちに、桐野夏生を読ませたい。複数の視点で語らせるとことか、供述してる形の章とか、三人称とか、全てが桐野さんがやってることを追いかけて、半分も届いていないという感じがしました。 そして、人間描写も、うーん、全然浅いよ? どこで泣けばよかったんだろう…。伏線に見せかけてやりっぱなしエピソード多すぎ。 頑張れ、吉田修一。あ、でも、本人も大傑作って言ってるし、周りの評判も善いらしいから、頑張ってるのか。でも、わたしにとって残念な方向に成長してしまったという感想でした。がっくし。 もちろん一気に読了できるくらいの面白さはあるんだけどね。時間つぶしにはなるけど、文章追ってる時間がもったいなかったなあという読後感でした。 一方的にけなさず、根拠を示したほうがいいよね。以下ネタばれ含みます。 金髪の若い土木作業員が保険外交員の若い女を殺した、さあなぜだ、という話で、以下、その謎を紐解くエピソードが綴られます。この主人公とも言える土木作業員、祐一の人物像が支離滅裂。エピソードがその場の思いつきとしか思えない。 *母に捨てられた過去があり、置いて行かれることに恐怖がある。(これは伏線として読める) *あるソープ嬢に惚れて通いつめ、具体的な話が決まってないのに二人で住むためのマンションを借りたことがあり、その一途さに恐れをなしてソープ嬢にどろんされた。(マンションの金はどこから?) *起承転結の起と結しかない男だと友人に評されている。(じゃあラストの行動は…) *女性と話すときは声が小さくなりぼそぼそと喋る。話題性に乏しくつまらない男だと評価されている。(なのに、最後、一緒に逃亡する女性と出会うと急にいきいきと喋る男になる。相手による?) *ソープ嬢に通ってたときもそれほどセックスに執着がなかったのに、出会い系で出会った女にいきなりホテルへ行こうと言う。 *なぜか、抜群にセックスがうまい。(出会い系で磨いた…?どんだけ…!) *どっちも被害者にはなれないんだよ、という理由で母にせびりたくもない金をせびりにいっている。(ラストの伏線だが、唐突すぎる) *校庭に転がるボールみたいなもんで、自分の意志がなく人に転がされてあっちへ行きこっちへ行き、それで別に苦じゃない性格である、と友人に評されている。(こんなのが出会い系するか?) なんつうか、別にいいけどね、こんな人がいても。枚数を重ねるごとに新しいエピソードが加わってそれが今までのエピソードとマッチしない違和感を抱えつつ最後まで読みました。感動どころの騒ぎじゃない。他に、本筋に関係ない中途半端なエピソードがいっぱいあるし、やけに主人公に同情的で他の人がかなり悪人であるかのような描写をしておいて、主人公は実は悪人じゃなかったかもしれないーとカミングアウトしたところで、「はあ」みたいな感じでした。 そうか、みんなこれが面白いのか…と、なんとも言えない気分になったのでした…。 |