読書の記録

No.230 2007.7.7

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土の中の子供 /中村文則

(新潮社 /2005年発行)



 表題作は第133回芥川賞受賞、ということで読んでみました。

 親に捨てられ、預けられた親戚に虐待され、施設で育ち、タクシーの運転手をしている二十代後半の男が主人公。夜中にたむろしているバイクの集団に喧嘩を売ったり、マンションから飛び降りたり、死への欲求が止められない。でも死にたいわけではない。圧倒的な暴力に晒されている自分が自分から抜け出すその瞬間を求めている。

 え、いまどき?と驚くくらいこてこての自分探し小説。ちゃんと腰をすえて文学してるし、真面目だし、リアルだし、迫っているんだけど、展開が素直すぎて物足りなかった。虐待された人間が自己再生していくというプロセスを素直に丁寧に書いた作品。回想シーンや死への要求を語る場面などは、いろいろな言葉や表現が駆使されてはいるんだけど、でも結局言いたいことは小説の世界で散々やられてきたことばかりのような気がしてしまった。でもこの真面目さが芥川賞に合ってるのかな。もちろん、このテーマをやりきっている力量はすごいし、作品として完成されているのは評価できるけど、テーマとありきたりな切り口がつまらなかった。

 もう一個の作品「蜘蛛の声」は、野暮ったい安部公房という感じかなあ…。素直すぎるというか。発想は面白いけど、もっとざっくりすっぱり魅せてくださいという気がしました。

 などと文句を言いつつも、一気に読めてしまったので、★5つ。




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