読書の記録

No.224 2007.4.11

←back 


誠実な詐欺師 /トーベ・ヤンソン

(筑摩書房 /1995年発行)



 ムーミンの作者として知られるトーベ・ヤンソンの小説。大人の童話なんてものじゃなく、堂々とした文学である。人間描写がぞっとするほどうまい。愛想のない人とか変わり者をこんなに精密に人間くさく書く人を他に知りません。文章の終わり方と言うか余韻もよい。長編小説なのに、一遍一遍が切れのいい掌編を読んだように余韻がびびびびーっと来るんです。寒くて暗い北欧の鬱々とした気候の田舎の風景で暮らす頑固でシンプルで温かい人々の話。

 夏の間は漁で、冬の間は観光客に売るためのベッドカバーを編んで生計を立てている北欧の小さな村。雪に降りこめられた暗い冬の描写から物語は始まる。

 カトリは弟マッツにボートを買い与えるための資金を誠実な方法で手に入れるため、兎屋敷と呼ばれる絵本作家アンナの家に住み込む。数学に強く常に公正であろうとするカトリは、お人よしでお金に疎いアンナが騙され搾取されていた本来もらうべき取り分を取り戻し彼女の財産を増やすことで、その中のいくらかを報酬として手に入れる。老女と呼ばれる年齢に近づいているのに、いつまでもパパとママの思い出話をするようなアンナは、カトリの冷徹とも思える指摘の数々によって自分がいかに騙されていたかを知り、人間不審になってしまう。カトリはカトリで、今まで信じていた数字の合理的世界をアンナに崩されていく。

 二人の感情の動きが繊細に伝わってくる。二人の間の緊張した関係の変化も伝わってくる。それでいてどちらが悪役というわけでもなく、絶妙なバランスを保ち、物語の緊張を維持している。

 トーベ・ヤンソンの小説シリーズは8冊くらいあって図書館に揃ってた。わたしの中で今一番熱い作家かも。もう当分読むものに困らない!




amazon


 ←back    menu