バンビの剥製 /鈴木清剛
(講談社 /2004年発行)
うーん、面白かった! この人の小説、文句なしに好き。うまいとか下手とかより「好き」。女の子をこんなに魅力的に書ける男性作家はそうそういないよ。人間関係をよく観察してるというか。微妙な部分をさらーっと書くのがうまい。そんでもって服飾業出身者だから、服の描写もさらっと書いちゃうよね。小説もうまいし。ちゃんと小説として心に残るし。垢抜けてて。
自分の殻に篭る8つ違いの姉と、家庭を放置して新しい恋人と仕事に駆け回る母と、自分が腹の中にいるときに亡くなって顔も名前も知らない父。そんな家族に囲まれて育った主人公の「ぼく」は、母を当てにすることもできず姉を理解することもできず、働かないでだらだらし生きていきたいと願いながらフリーターの日々を送っている。母が恋人と島で暮らすと家を出て行ったことから、姉の部屋に転がり込みルームシェアが始まった。
机にかじりついて、かりかりと鉛筆を鳴らしながら恋人も作らず仕事ばかりしている真面目な姉。もう27歳よ? と何年も付き合ってる恋人のマキに同居を迫られ、まだ27歳だよとのらりくらりと交わすいい加減な弟。彼らは直接交じり合わないようで、一つの部屋の中で間接的に影響しあっている。その関係を見事に描いていた。
タイトルにある「バンビの剥製」の使い方もよかった。動き始めた人間関係やラストへの持って行き方や象徴の使い方、それらすべてを裏切らない小説として出来のいい作品だと思った。まあ、ね、要するに「うまい」ってことですが。こう言ってしまうと悔しいので。
むっとすると敬語になってしまう姉。心の底では真面目なことを考えていても言葉で口に出してしまうといい加減な冗談しか言えない「ぼく」。人間が本当に魅力的に描写されている。うまいだけじゃなく、登場人物への愛を感じる。
ちょっと難を言えば、ときどーき出てくる説教くさかったり説明くさかったりする長セリフはイマイチかな。喋らせなくてもこの作者なら書けるのに!と思ったりした。
本格的にこれは好きな作家リストにランクインかもしれない。他の作品もせっせと読まねば。
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