読書の記録

No.198 2006.11.18

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逃亡くそたわけ /絲山秋子

(中央公論新社 /2005年発行)


 勢いのあるタイトルが勢いのある字で殴り書かれている表紙。町田康系のパンクな内容? とか思ったけど、ほのぼの系だった。まあ絲山さんらしいというか。

 鬱病で精神科の病院に入院した主人公の「あたし」は、症状が躁に転じて以来、「亜麻布二十エレは上衣一着に値する」という意味不明の幻聴に悩まされている。これ以上病院に入院していると駄目になると考えた主人公は鬱病の入院患者「なごやん」を誘って病院から逃亡する。

 終始博多弁で喋る主人公。車で逃亡する先は九州のあちこちで。何だか観光ガイドみたいだなあと思いながら読みました。福岡に四年暮らしていたわたしとしては、方言や九州各地のガイドもにやにやしながら読んだけど、さてさて他の地方に住んでる人にこの博多弁が分かるんでしょうか。

 絲山さんは人間同士のかけあいを書くのがうまい。会話を読んでるとにやにやしてしまうし、人物がとても好感が持てる。精神的疾患特有の本人は大真面目なんだけど他人から見たら滑稽なこだわり行動とかが、ユーモラスに暖かく描写されていたのが面白かった。愉快なだけじゃなく、主人公の焦燥、二人の微妙な関係が伝わってきたので、ただ楽しいだけじゃなくちょっと胸に残る話で後味がよかったが、ストーリーは物足りない。鹿児島の果てまで逃げて、反省して、ああ戻ろうかみたいな。いい話なんだけど、「気分転換」くらいにしかならない。読んでいる人の何かを変えてくれるわけではない。まあそれでいいと言われればそうなんだけども。芥川賞作家というからには、もう少し中身が欲しいよなと思ったりもするけど。まあ芥川賞自体がもう「どうよ?」って感じですね。

 雑誌をめくる感じで楽しむ小説かな。




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