読書の記録

No.188 2006.10.5

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刺繍 /川本晶子

(筑摩書房 /2005年発行)


 第21回太宰治賞受賞作品。太宰治賞ってのは筑摩書房と三鷹市が共同でやってる新人賞ですよ。名前が太宰な割に、あまり有名ではない賞で、しかもあまり有名な人は出てないけど。太宰治賞の作品を読むのは初めてかもしれない。

 40歳になるデザイナーの主人公エリは、敏雄という20歳の恋人がいる。若い敏雄相手に結婚の約束や将来の話をすると負担になると思ってしない。今が楽しければいいと自分に言い聞かせる。エリの母親が認知症になる。呆ける前から敏雄のことを知っている母親は、呆けてから敏雄に恋するようになる。敏雄の言うことなら素直に聞くので、敏雄はエリと父母が暮らす家にアルバイトとして住み込むようになり母の世話をする。

 母が呆けて悲しいとか、恋人を取られるような感じがして嫉妬してしまうとか、40歳にもなって子供っぽい自分に嫌気が刺すとか、うっかり浮気してしまうとか、主人公の細かい心情がよく書けてると思う。母に対する思いなど、丁寧で、はっとさせられる。文章もぽつんぽつんとしていて、川上弘美を目指したい風味で(どんなだ)、好感が持てる。

 ただ、小説としていまいち。ほのぼのエッセイとかなら別にこれでいいんだけど、小説として始末をつけるというか一つの作品として何か世界を仕上げるとか、そういうのがなく、開きっぱなしのまま、妙に美しい感動風のまとめのまま終わる。もともとの世界が狭いからこれでいいのかなあ。刺繍の使い方もいまいち。理想的過ぎる一夜の浮気相手は主人公を諭すためだけに登場してて、ご都合主義。ぬるま湯の中で、主人公が最初と最後で変わっていない気がした。(変わったのわたしは、みたいな締めなのに)呆けた母が年下の恋人に恋するという設定はよかった。

 ってこんだけいろいろ言ってあれだけど、細かい心の機微を追っていくだけでも楽しめる小説でした。エッセイだと思えば、ありかと。二作目が出たら読んでみたいかな。




amazon↓なんか画像でかい…。


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