読書の記録

No.167 2006.7.12

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門 /夏目漱石

(新潮文庫 /1990年改定版発行)


「三四郎」「それから」「門」という三部作の一番最後の作品から読んでしまいました。あほですかって。だってこれだけがたまたま図書館にあったのですもの! でも面白かったです。

 冴えないサラリーマン宗助と病気がちで家にこもりっぱなしの妻御米という子供のいない中年夫婦を描いた話。淡々と日々をこなしていく生活を見事に書いていると思う。宗助と御米がとても仲がよく二人の関係においてはこの上なく幸せそう。ただし、二人には暗い過去があり、御米はかつて宗助の友人安井の妻だった(略奪愛!)。この暗い過去のせいで世間から遠ざかりそして世間からも遠ざけられ二人だけで閉じた貝のように暮らす。

 悲壮感や苦悩は、表面上は存在していない。苦悩や悲壮のもとを脇に追いやって、とりあえず本当に危機的な状況になるまでは手をつけることなく忘れて、日々に埋没していく。その生き方が本当にリアルでぞっとする。宗助の若い弟が将来の希望に溢れて焦燥と不安でいらいらしながら兄に頼みごとをしているのに、のらりくらりと交わしながら明日やろう、また今度やろう、今日は手紙を書いたからもういいや、と煮え切らない宗助の態度。若い弟が夫婦と暮らすことで際立つ夫婦の静かな生活っぷり。子沢山で毎日楽しそうに笑いながら隠居している大家と宗助は、ひょんなことから仲良くなるが、この大家の存在も夫婦の生活を対比によってくっきりと際立たせる。
 もちろん読んでいる間はそんなことを考えず、少しずつ楽しみにして読んでいくのだけど、改めて感想を書く段において、仕掛けられた装置の巧妙さに驚く。

 何も起こらない小説。起こりかけた出来事も、目を伏せてやり過ごしてしまう二人。でも本当に文字を追っていくのが楽しかった。わたしが年を取ったから読めたのかもしれない。宗助の弟のように若くてせかせかしてる時分にこれを読んだら、退屈だ!といらいらしたかもしれないな。…ってまだ老成するには早いぞわたし。  



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