読書の記録

No.150 2006.4.15

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夢の女 /永井荷風

(岩波文庫 /1993年発行)


 永井荷風を読んでおかねばと思いつつ、読んでなかったのでようやく。この作品は、明治36年、荷風が23歳のときに発表した作品。新進作家としてデビューしておきながらも、作品を持ち込んでも三度に一度しぶしぶ受け取られて、そのまま放置されることもあるという厳しい状況。この作品は、新声社(今の新潮社)に、原稿料無用という条件で刊行してもらったそうだ。そうか、荷風も苦労したんだなあ。

 田舎の貧しい父母とのため女中奉公に出たお浪は、奉公先の主人にはらまされ女児を出産、妾となるが、主人が急死したせいで職も家も追われ、新しい職を探すために子供と別れることを決意する。そしていよいよ窮した家族のために娼妓になる。家族のためという重荷を背負わされた若い女に、不幸が次々と襲う話なんだけど、なぜか暗くない。お浪という女性像は、憎んだり怒ったりということはなく、ただ運命を悲しみ受け入れる。どこまでも澄んで、ひっそりと冷たく、はらはらと音もなく泣きたくなるようなそんな作風だ。三人称である作者の視点が、主人公から時折ふっと離れて、主人公をいたわるように語り手として主人公の憐れさを語ることが、この小説が暗く重い不幸を書いただけの小説にしない理由なのかもしれない。目新しいストーリーがあるわけではない。だが、運命の無情さ、生きることの哀しさが胸が痛くなるほど迫ってくる。読み終わった後、しばし呆然とした。



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夢の女

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