読書の記録

No.148 2006.4.11

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トリップ /角田光代

(光文社 /2004年発行)


 2000年から2003年まで「小説宝石」に掲載した短編たち。一つ一つは独立した話として楽しめるが、彼らは皆、ある小さなしょぼくれた町に関わる人たちで、ある物語の主人公であった人が別の物語で背景として登場したりする。その絡ませかたが有機的で、本当にうまい。

 角田さんは、「日常」というものの恐ろしさを書ける作家だと思う。何の取り得もなく、楽しみもなく、ドラマもなく、でも生きていかなければいけない、それが日常だ。日常からは逃れられない。その逃れられなさを書いていると思う。ぞくっとする。

 主人公は、小学生だったり、女子高生だったり、主婦だったり、若い女だったり、短編によっていろいろだ。だが、すっと自然にその世界に入っていける。うまい。最後まで緻密に作られていて、ラストがとても心に残る。小説として出来すぎて厭味な感じもちらっとしたけど、最近、ゆるい現代小説ばかり読んでいたので、本当にこのうまさ、小説に対する真摯さにほっとさせられる。
 おすすめの一冊。一気に読むというよりは、毎日一つずつというように大事に読んで感じ。どの作品も余韻がとてもいい。

 ところで、角田さんはうまいのに、そのうまさが読者にプレッシャーにならない作家だと思う。「どうだうまいだろう!心して読め!!」なんてオーラがなく、すっと入れる。油断していると、がつんと来る。でもこれって書き手としては、危険だと思う。うっかり油断していると、無意識の内にそのうまさを真似して自分の作品を書いてしまうかもしれないから。



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