読書の記録

No.143 2006.1.21

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オニチャ /ル・クレジオ

(新潮社 /1993年発行)


 ル・クレジオは、フランスを代表する現代作家であると紹介されるが、彼の故郷はフランスだけではなく少年時代を過ごしたアフリカやインディオとともに暮らしたメキシコや、彼の家族が住んでいたモーリシャス諸島だったりする。フランス文学という枠には収まりきらないエキゾチックな世界観。それはなんだか懐かしいような世界観だ。

 オニチャとはアフリカの地名。少年フィンタンは、母とともにまだ顔を見ぬ父が調査のために滞在しているオニチャに長い航海を経てやってくる。アフリカでのさまざまな体験が、少年の目を通して綴られている話。派手な冒険譚ではない。なぜならそこで描写される圧倒的な情景は、異世界ではなく、アフリカでの日常だからだ。

 母を思いやり、アフリカで出会う友人に鍛えられ、成長していくフィンタン。一瞬の恋に身を任してフィンタンを産み、アフリカまでやってきたが、夫とこのアフリカの地で横暴に振舞う白人たちの仲間になじめず、一人ノートに詩を書きつける生活をする少女のようなフィンタンの母、マウ。過去に消えてしまった伝説の都市の魅力に取り憑かれ、妻も子も仕事も省みず、伝説を追い求めるフィンタンの父ジョフロワ。それぞれが、それぞれのやり方で、このオニチャを語ってくれる。

 自然の描写が圧倒的だ。神秘的ともいえるかもしれないが、ちゃんと生の息吹が聞こえてくる強い描写だ。物語は、「おはなし」というよりは、過去を振り返って思い出話をしているという感じで、脈々とつながっていくのではなく、断片的に、鮮明な光景とともに語られる。まるで、大人になったフィンタンと何日もかけておしゃべりをしているような、そんな気持になった。



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オニチャ

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