別れてきた恋人への手紙 /ダーチャ・マライーニ
(晶文社 /1998年発行)
マライーニの本2冊目だけど、これは本当に面白かった。この作品で、マライーニのファンになった。わくわくしたとか技術的にすごいとかそういうことだけでなく、むしろ深いところで共鳴できた。
作品全体が、恋人マリーナにあてた何通もの手紙という形で構成されている。主人公は女性。恋人も女性。恋愛に対して柔軟な考えを持っている主人公だ。主人公は、激しく奪い取るように自分を愛するマリーナから逃れて別荘に来て、小説を書いている。その合間にマリーナに向かって手紙を書き続ける。
手紙の中には、小説が上手く書けない葛藤や、少女時代の思い出や、夢の話や、避暑地での出来事が書かれている。実際の人物の台詞や人物の動作の描写に関しては普通の小説よりは不自由なはずなのに、手紙という形式によってより深く広がりを持った世界が描き出される。この形式で、一つの小説を構成し満足させるというのは、実は相当な技術なのではないだろうかと思った。
手紙という文章は不思議だ。ただ出来事を伝えるだけじゃなく、差出人と相手の心のかけひきがその中に内包されている。相手に向かっていて、でも自分の心にも向かっていて、表現として外にも向かっている。そして、手紙という形式は、文章の女性性を引き出すのにとてもいいのではないかと思った。
仲の良い旧友に会って時間も忘れて語り合っている、そんな気持にさせてくれる本だった。
(抜粋)
わたしは原稿をかかえて陽差しのなかを歩いた。この小説はけっして終わらないだろう。手のなかで剥げ落ちてゆく。三年も費やしているのに断片が逃げてしまう。忍耐強くそれらを縫いあわせ糊で貼りあわせても、また剥げ落ちて深い裂け目が見えるのだろうと思う。人物たちは舞台に登場する順番を待って、幽霊のように佇んでいる。
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