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恋愛詐欺師 /岩井志麻子 (文藝春秋 /2004年発行) 「ぼっけえきょうてえ」で有名になった岩井さん。爆笑問題の「文学のススメ」(レビューこちら)を読んだときに面白い人だなあと気になってた。ホラーや歴史系の人かと思ったら色っぽいタイトルの短編集があったので借りてみました。 面白いよ。この人。凄みがある。面白い作家ってのは何かに対して凄みみたいなのを持っているわけです。何に対してかってのは人それぞれで、人との関係性とか人間描写とか人生観とか哲学とか生とか死とかエロスとか俗とか闇とか。んで、この作家は「肉体の痛み」に対して凄みを持っていると思う。痛い描写をするというのではない。痛みに対しての考え方みたいなものが作品通して貫かれている。ぞくりとさせられる。しかもそのぞくりが、嫌なぞくりではない。 たとえば、何作か読んでやっぱり苦手だなあと思った柳美里の作品は人間の汚さに対して凄みを感じさせるけれど、それが嫌なぞくりなんだよね。わたし的に。ぞくりの根本に「恨み」みたいなのがある気がする。べったりと何かに依存する感情。それがいいという人もいるだろうけれど。 その逆で、突き放して描いていることで凄みを持たせることには成功したけど、その凄みの根本にあるのが「無知」という作家も多い。よく言えば無邪気。凄みのある無知は面白い。でも、読んでて飽きる。何でも「考える必要ないしよく分からない〜」で説明できちゃう感じのね。何作かはいいけど。もういいやってなるのです。あとそれに似てるけど、何でも諦めで説明できちゃう作家もつまらない。 んでもって、この岩井志麻子の描く痛みやエロスや死の根本には「恨み」がない。「無知」もない。「諦め」もない。と、わたしは感じた。あるのは、野生動物のような受容だ。恨むでも諦めるでもなく、降りかかったことをそのまま受け止め自分の出来るだけの範囲で出来るだけ対処する。そんな感じ。そこが気に入った。 短編一つ一つの舞台は、デリヘルだったりレディースあがりの少女だったりと、エンターテイメントに徹するのだという気持が現れている舞台設定だけれど、根本に流れるものがいいので全部面白く読めた。 「ぼっけえきょうてえ」も読んでみようかなあ。この人のホラーなら読んでみたい。 from amazon |