読書の記録

No.134 2005.12.24

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取り替え子(チェンジリング) /大江健三郎

(講談社 /2000年発行)


 久々の大江健三郎。大江健三郎って読み出したら止まらないんだけど、本を手に取るまでが億劫なんだよね。というわけで久々なんだけど。しかも若いときのばかり読んでたから、こんなに最近のを読んだのは初めてかもしれない。

 取り替え子と書いてチェンジリングとルビをふっている。このモチーフは最後の章になるまで出てこないが、このイメージが出てきた途端今まで語ってきた世界が漠然とつながっていく感じがして、とても印象に残った。主人公は老年作家、古義人。親友であり同志であり師でもあった映画監督の友人吾良が自殺をしたところから物語は始まる。吾良は古義人に聞かせるために話を何本ものテープレコーダーに録音して残していた。物語は、彼の語りに古義人が答えたり回想したり古義人の行動を追ったり、時間の舞台をあちこちに移し行ったり来たりしながら進んでいく。真っ直ぐに進んでいく物語に比べると複雑であるが、そんなに読みにくいというほどではないし面白く読めた。でも、わたしが気付いていない以上に小説の仕掛けがまだまだ凝らされているのだろうと思う。それを全部味わうことができたらより面白いのだろうけれど。
 ただ、そのような小説の書き方を、作者の分身であると思われる古義人が吾良に批判し皮肉られるというシーンがあり、自己批判というか自己パロディのような形で面白い。三島由紀夫の手法を思い出した。

 単純な感動を許さない。人生を消化した読後感。「何」がよかったかなんて単純に抽出できない。ただ読んでよかったかと問われれば、よかったと自信を持って言える。また他の作品を読んでみたい。大江健三郎は文学している。それは文学風味のこちこちに固まった退屈な安全な年食った「えせ文学」とは全然違う。煮えたぎり、我が身を滅ぼすような若々しさとそれらを統制する技術力がある。読んでいてどきどきさせられる。

 ちなみに、amazonに書いてあるこの出版社からのレビュー、全然物語を表していないと思うなあ。

「国際的な作家古義人(こぎと)の義兄で映画監督の吾良(ごろう)が自殺した。動機に不審を抱き鬱々と暮らす古義人は悲哀から逃れるようにドイツへ発つが、そこで偶然吾良の死の手掛かりを得、徐々に真実が立ち現れる。ヤクザの襲撃、性的遍歴、半世紀前の四国での衝撃的な事件…大きな喪失を新生の希望へと繋ぐ、感動の長篇!」

 そんなふうな捉え方したら見えるものも見えないぜ。もっと素直に読まなきゃ。まあわたしは全貌が見えたというわけじゃないけど、たぶんこのレビュー書いた人よりは見えてると思うなあ。


from amazon 文庫

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