龍宮 /川上弘美
(文藝春秋 /平成14年発行)
文学界に連載していた短編集(一つは新潮)。どの話も、人間と違う生き物が出てくるが、登場人物たちは非現実的なものをそのまま受け入れる。透明で不思議な世界の底に濃く重い澱みを隠している。文学界を立ち読みしたときに見かけてずっと忘れられない話「荒神」が載っていた。しかも覚えていなかったのだが、主人公の名前がイズミだったのがびっくりした。イズミってわたしの名前なんだけれども。何だかどこか幸薄い人物につけられている気がするなあ。村上春樹の「国境の南、太陽の西」にも出てきたけれども。
小さくて顔が三つあって心がけのいい女の台所にだけいる「荒神さま」。その昔は蛸だったと語る男。海に住む生き物だったのに女の姿で人間に飼われる「海馬」。虚になる前の精気のなくなった人間を夜な夜な回収して回る毛むくじゃらの生き物「うごろもち」(←本文では漢字だけどネットには漢字出ない…)。二百年も三百年も長生きする時代に自分の遠い先祖に恋をする話。
この世の常識とはどこか離れた世界にたゆたっていると、縛られ縮こまっていた心が解放される。強いインパクトや感動したという話ではないが、ふとした瞬間に思いを馳せてしまうそんな世界だった。
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