ニューヨーク'69 /草間彌生
(作品社 /1999年発行)
本人の体験談に近い話だと思う。ニューヨークで活躍する前衛アーティストであるメイ。麻薬中毒のカメラマン、シル。作品制作への熱情。ニューヨークという街の狂気。メイのアート制作のドキュメンタリー映画を見ているような小説。ストーリーや小説としての完成度は、普通なのだけれど(でも充分面白い)、オーラが文章の間からほとばしっていて圧倒される。見えているもの、感じているもの、伝えたいものがあって、文章にするのももどかしいという感じがした。彼女のアート作品を見てみたい。言葉を解さずに伝わるものを感じてみたい。
小説としても充分面白く、一気に読んでしまった。
(冒頭抜粋)
世界が三層に色分けされている。くっきりとしたそれぞれの世界は、視覚そのものが隔てられているように思わせる。上、中、下の三つの結界。いちばん下はハドソン河で、真っ黒なタールがぶち撒けられたような中に大地の静かなうねりの呼吸が見てとれる。先ほどまでは漆黒の奈落だったのが、陽が昇るにつれ、まるでTVのテストパターンのような硬い色彩が波間に現れてはモノクロームに変じていき、見ていて飽きがこない。
(中略)
空にあたる上の部分は、まるで万華鏡を観ている気分にさせてくれる。星も月も見えない。黎明のおぼろな、輝きと闇とをシャッフルしたような色合いが宙空を蔽い、飛行機が残してゆく幾つもの赤とオレンジの航跡は筋となり、やがて残像となって天を焦がし、あたかも流星の乱舞を見ているようで、光点の周りには空気の対流がつくった輝く澄明な虹が生まれ、ゼリー状のその半透明の虹は大気と混ざり合うたびに、まるで線香花火のようにスパークしては弾け飛ぶ。
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