すみれ強迫 /草間彌生
(作品社 /1998年発行)
図書館で見つけて借りてみた。芸術家としての草間彌生の名前はあちこちで見かけたことがあるし、個性的なモデルとしてポートレートに写っているのも見たことある。でも小説書いてたのは知らなかった。すごすぎる、この本。芥川賞とか何してるんですか…!と、本を両手で握り締めながらわなわなしました。
著者略歴に「子供のころより物体のまわりにオーラが見え、植物や動物の言葉が聞こえる。幼児より強迫的常道パターンが眼前を覆って出現。その幻視作品を数多く制作。自然界の背後から強烈な啓示を受ける」と、いきなりある。これが他の人だったら、うさんくささ満点で読む気も起こらないけれど、彼女のアートをポスターや雑誌で見かけたことがあるから、ああ、彼女ならありうるんだろうと納得して読み始めた。 すごい世界が広がっていた。ちゃんと言語にならないものをストーリーに出来る実力があって、すごい小説になっていた。すごいよ。まじすごいよ。
大興奮です。突き抜けている。残酷さ、エロスに対する壁がない。ぞっとさせられる。その一方で繊細な自然描写と丁寧に描かれた少女の心。そして、それ自体は特異というほどではないが、迫力のあるストーリー。こんな小説があるのか、と思った。わたしには書けないけれど、こんな小説があって、ここまでやっていいんだということがとても刺激になった。
(抜粋)
スミレの織りなす、むらさきと青の四角の絨毯だけが、自分の知り得た世界であり、自分を知り得てくれる世界でもあった。
少女には、この風景を言葉に紡ぐことはできない。ただ、なんという孤独の森だろう、この淋しさは一体なんなのだろうと、たたずむばかりである。
ぱちん、とスミレの果実が爆ぜた。聴こえるはずのないその音を、彼女はたしかに捉える。聴くのではない。ただ感じるのだ。スミレというのは不思議な花で、果実は乾果の一種だが、熟すと三つに裂けて種子を周りに弾き飛ばすのである。そうなると採取は不可能だから、その株は葉も茎も根も、一度に打ち捨てられてしまう。
さよなら、と少女が無言のまま声にする。
さよなら、とスミレが笑う。
スケッチ・ブックに、また色鉛筆のむらさきが一条二条と書き加えられ、スミレの花が精気を得てゆく。ぱちんと爆ぜた種子は幾多の点となり、少女の手も腕も、そして息までもが、スミレの精気に彩られ、同時に彼女自身も一葉の絵の中に入りこんでゆく。
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