美しい星 /三島由紀夫
(新潮文庫 /昭和42年発行)
すごいね。三島由紀夫。すっげー、うまいね。文章。 世界観とかは好きじゃなかったのであまり読んでなかったんだけど、今読んだらすごいねえ。すっげーうまいね。文章。あれ、二度言った。好きな内容や思想じゃなくても読ませちゃうよ。それが作家の腕ってもんだ。他のも読まなきゃ。すっげー。
たぶん、三島由紀夫作品の中では異端な感じの小説。空飛ぶ円盤を目撃したときから、自分たちは宇宙人であるという自覚に目覚めた家族の物語。この話を彼以外が書いたとしたら、SFか滑稽ものか皮肉なショートショートになるんじゃないかな。でも三島由紀夫の筆はすごい。「ありうる」と思わせられてしまう。一家は、火星、木星、水星、金星とそれぞれ違う惑星出身の宇宙人である。彼らは星による性質の違いこそあるが、共通して人間より優れていると信じ、宇宙の高みから地球の人類の営みを俯瞰している。彼らは当然、一般人からは疎まれ狂人だと思われるし、彼らの地球救済への活動はうさんくささ満点である。そもそも、火星はともかく木星や金星に宇宙人がいるとは科学的には思えないし、彼らが地球人より優れているという根拠はない。なのに、「ありうる」と思わせられてしまう。彼の綿密な筆が世界を作り出し、その精巧さが現実まで充分に及ぶことが出来ているのだと思う。
本当に文章が上手い。的確な描写と比喩。無駄がなく充実した言葉たち。以下、感心した部分の抜粋メモ書き。
(抜粋)
濃紫の横雲の上へ、この二つの星が抜きん出たころ、周囲の木々の影は次第に闇から身を解き放ち、わけても東の空を背にした木々は、繊細な影絵になって、風に吹かれてそよめく一葉一葉の影は、ほとんどなやましく見えた。星は徐々に減りつつあったが、曙の色はまだ不本意な小豆色で、東の地平線には墨いろから紫にいたるさまざまな濃淡の横雲がわだかまっていた。
母は息子のための春向きの軽い毛糸のスウェータアを編みながら、地球の春をはじめ、諸惑星の春の悉くを、編み込んでしまいそうな勢いだった。その指は小まめに動いて、膝の上の毛糸の玉を徐々に痩せさせ、芽吹く樹々や草の下萌えの色、春先の不透明な空、小鳥たちの汚れやすい胸毛、したたかな雨の繁吹……これらの地球の春に加えて、諸惑星の炎やガス体や氷や異様な植物にかかわる春を、小さな肥った手の中へ編み込んでゆき、それぞれの大地を解いて、自分の好む小さな形の中、つまり息子のためのスウェータアの形の中へ融かし込んでしまっているように見えた。
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