読書の記録

No.114 2005.8.22

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西日の町 /湯本香樹実

(文藝春秋 /平成14年発行)


 第127回の芥川賞候補作。(受賞したのは、吉田修一のパークライフだって。)名前をよく本屋で見かけるので読んでみた。

 文章やストーリーにいやみがなく、人間が生き生きと書かれていて好感がもてる。でもいやみがなさすぎるのが欠点だと思う。主人公である「僕」が子供時代を回想する。母と子二人きりの家庭に、祖父である「てこじい」が転がり込んでくる。母と父親であるてこじいとの微妙な親子関係、僕が個性的な祖父と関係を作っていく過程がこまやかにつづられる。母、てこじいの人物像は面白かったが、僕がいまいち。子供らしい(意地悪な)視点が欠けているし、思い出しながら語っている「僕」が40代の大学教授であるという設定がストーリーの中でまったく生きてこない。いっそ、子供の視点だけで完結しても良かった気がする。

 最近読んだ本の中で、小川洋子の「博士の数式」を思い出した。母子家庭。母子が老人と心を通わせていく。そして老人の最後を和解した形で看取る。まあ、思い出したといっても、この作品の方が先にあるのだけれど。

 あと一歩、物足りない。足りないもの、それは、主人公の内面への踏込みじゃないかな。ただの不思議な少年時代の美しい思い出話は、語る方はいいだろうが聞かされる方はそこにプラスアルファの何かがなければ物足りない。まあでも、この作者の文章は好きだ。すいすいとひっかかるところがなく一気に読めた。


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