読書の記録

No.110 2005.6.15

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君がそこにいるように /トム・レムポルド

(白水Uブックス /1993年発行)



(抜粋)

 少し前、メアリの長年のボーイフレンドから電話があった。メアリが僕の前につき合っていて、僕と別れたあとにまた戻っていった相手だ。彼と会ったことはなかったけれど、一度どしゃぶりの日に、五番街の店の軒先でメアリと肩を寄せあって雨宿りしているところを見かけたことがあった。彼は手を上げて、僕の乗っていたタクシーを止めようとした。僕は一瞬、車を停めて二人を乗っけてやろうかと思った。そのときは結局、顔を合わせれば彼のほうが気まずい思いをするだろうと考えて、やめにしたのだが。  驚いたことに、あのときアンシルに会ったとしても、別に僕のほうは不愉快にはならなかっただろうな、と思った。だいいち、彼のことに腹を立てる権利なんて僕にはなかった。もっとも権利があろうとなかろうと、人間怒るときには怒るんだろうが。メアリも、もしあのとき僕らが顔を合わせていたら、平然と顔を合わせている不自然さにちっとも気づいていないふりをしただろうと思う。
 メアリの話を聞くかぎり、彼は昔の僕にとてもよく似ていたし、昔の僕と今の僕が違う点といえば、ただメアリとの関係が変わったというだけのことだった。
 とにかく、その電話を要約するとこうなる。メアリが自殺をやらかした。彼女はもうこの世にいない。ボーイフレンドにはその理由がまるでわからない。それでもこのことを、誰よりも先に自分の口から僕に知らせたかった。


 元恋人メアリが自殺した。そう聞かされた「僕」の一週間の物語だ。ユーモアと皮肉の混じる軽快な一人称。だがその中に哀しさ、やるせなさがひしひしと感じられる。解説やカバー裏の紹介文では、その軽快さを強調して紹介されているが、読んでみると印象ががらりと違う。軽快な口調だからこそ痛々しく、胸に刺さる。女の子に対して少々身勝手といえる主人公だが、読んでいてとても好ましかった。軽快な会話だけでなく、地の文はたっぷり読ませる。派手なストーリーがあるわけではないが、「僕」が次に何をやるのか目が離せない。あっという間に読み終えた。面白かった。


訳:岸本佐知子


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君がそこにいるように

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