いとしい /川上弘美
(幻冬舎 /1997年発行)
川上弘美さんの書き下ろし長編。一度本屋で立ち読みしたことがあるけれど、今回もう一度じっくり読んでみた。以前はただ面白い面白いと読者として楽しんで読むことしかしなかったけれど、自分も小説を書く一作者としてこの作品を読むと、文章の丁寧さ、話運びのうまさ、雰囲気のすさまじさ、に唸らされる。
繭に入って冬眠してしまうオトヒコさんや、男の人魚のようなたたずまいのチダさん、チダさんとセックスをすると体の一部分がねじれてしまうミドリ子、かつて春画のモデルをしていたカップルの幽霊。どこかこの世のものではない人物たちなのに、くりひろげられる恋のエピソードは胸を締めつける。いとしいという感覚は、どこかこの世のものではないような気持なのかもしれない。
シーンの一つ一つが印象的で、本を読み終えてもふと鮮やかに脳裏に再生されたりする。
書き下ろし380枚だって。これだけ注意の行き届いた丁寧な文章を380枚つづるのはいったいどのくらいの時間と労力がかかっているのだろうなんて思った。
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