偶然―帆船アザールの冒険 /ル・クレジオ
(集英社 /2002年発行)
ハリウッドで大成功をおさめ、豪華な帆船で海を航海する映画監督モゲル。モゲルの忠実な友であり海と船のことなら何でも知っている男、アンドリアムナ。帆船に少年として潜り込む野性的な少女ナシマ。彼ら三人が帆船アザールに乗って航海をする。
訳者があとがきで「海のもたらす昂揚と充実の瞬間を語って音楽的な情感をみなぎらせる場面の散文が、小説としての質感を磨くのに大いに役立っている」と延べているように、この物語の中で何より圧倒的な存在感を放っているのは「海」である。モゲルの栄光から没落へと転げ落ちる運命の残酷さ。ナシマの成長。アザールは彼らの人生を腹に詰めて、気紛れで気性が激しく時には全てを包み込む海という運命の中を突き進んでいく。人物たちの人生はむしろ淡々と描かれる。大きな時の流れの中での当然の摂理のように。
焼け付くような海上の陽射しと、船酔いするような波の揺れを感じながらこの本を読んだ。
この本にはもう一編、野生に回帰するインディオの少年ブラビトを描いたアンゴリ・マーラという中編が収録されている。森の描写が圧倒的だった。息遣いが聞こえてくるようだった。
訳・菅野昭正
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